アンキアライン

ルイジ・ノーノの音楽(主として後期作品)について

2018-02-13から1日間の記事一覧

飛来

(ヴェネツィアにもいるコチドリ。イタリア語名Corriere piccolo) 2018年の新作 2017年の新作 Nono Books 2014年以降の主な新刊 2019 Irene Lehmann Auf der Suche nach einem neuen Musiktheater: Politik und Ästhetik in Luigi Nonos musiktheatralen Ar…

断ち切られない歌 後篇の中 1/14

メルヴィル、船の歌 帆柱を立てる Prometeoの序章Prologoは、シューマン『マンフレッド序曲』冒頭の激烈な三連打の引用で締めくくられる。スコア上に4群のオーケストラの52段に跨る総奏が突如屹立する光景はまさしく音の柱だ。しかしここで見逃してはいけな…

断ち切られない歌 後篇の中 2/14

断片=船 Risonanze errantiの四分音符=30の大海原に浮かぶ断片も島ではない。メルヴィルの詩句を原文から切り出して、ノーノは島ではなく船を造った。先ほど言ったように、島と船を識別することは容易である。島には向きがないが船には向きがある。それが船…

断ち切られない歌 後篇の中 3/14

かわく船 「海に浮かぶ○○島」と比喩的に言われることは多いが、本当に海に浮かんでいる島はひょうたん島くらいなものである。いっぽう船は例外なく本当に海に浮かんでいる。船の魅力の半分くらいはこの「浮いている」という海との絶妙な関係性にある。飛ぶこ…

断ち切られない歌 後篇の中 4/14

船の配偶子 エルンスト・ユンガーの『母音頌』に則ってRisonanze errantiの言語を二種類に分類していたが、 メルヴィルおよびバッハマンの詩句断片:子音と母音の結合状態:語詞 Wortsprache シャンソンのこだま:遊離状態の母音:音韻 Lautsprache 本当のと…

断ち切られない歌 後篇の中 5/14

船の生殖孔 Risonanze errantiの作品世界には、南北戦争勃発直前の時の経過を描いたBattle-Pieces巻頭の三篇の詩が時間的配列を保ったまま現れることによって、死へ、そしてその先の戦争へと向かう一筋の不可逆的な時の流れが引かれている。この片道航路には…

断ち切られない歌 後篇の中 6/14

とりあえずシンメトリー、略してとりシン 「正面性」ということに関して穴と左右対称とのあいだには互換性がある。無地の平面に穴をひとつ空ける、するとそれだけで正面向きの印象が生まれる。穴を空ければ穴をとおる前後方向の動線が自然に生起するからであ…

断ち切られない歌 後篇の中 7/14

ヴェネツィア的シンメトリー 楽譜をひらいた者の眼にはシンメトリーへの並々ならぬこだわりだと映るものに関して、ノーノ自身が具体的に言及した機会は少ない。作品全体が前後半で鏡面対称をなすIncontri (1955) について、このいかにも図式的な様式を用いた…

断ち切られない歌 後篇の中 8/14

ヴェネツィア的シンメトリー(承前) 「絵画は時間を真向いから見、浴びるための、唯一の形式である」 *1 と中西夏之は言う。身贔屓のようにも聞こえるが、文学・音楽・美術の芸術三分野を比べてみればたしかにそのとおりかもしれない。 奏者が客からみて正…

断ち切られない歌 後篇の中 9/14

船に乗る人、乗らない人 世の中には二種類の人間がいる、海に船を浮かべる人間と、浮かべない人間と。 「意欲的すぎる意志が、あなたの邪魔になっている(あなたがあまりにも意志的な意志を持っていることが、あなたの邪魔になっている)」 *1 、弓術の阿波…

断ち切られない歌 後篇の中 10/14

白鯨スタイル 『白鯨』のスタイルとはなにかといえばまず何よりも、かれら捕鯨船夫は広大無辺の海原にあくまでもハンターとして対峙しているということである。「すべて海の凄絶怪奇なものごとに、だれよりもはるかに直接にぶつかってゆくのは彼らであり、そ…

断ち切られない歌 後篇の中 11/14

ノーノの白鯨スタイル Carola Nielinger-Vakil会心の著書Luigi Nono. A Composer in Contextの分析 *1 を手引きとして、ノーノの白鯨スタイルのルーツを初期の「ガチガチの」セリー作品Composizione per orchestra n. 2: Diario polacco ’58 (1958) に辿って…

断ち切られない歌 後篇の中 12/14

ジョルダーノ・ブルーノの船 「つまり宇宙に存在する運動には、無限の宇宙から見るならば、上も、下も、あちらも、こちらも、区別ないのです。こういう区別は、そのなかにある有限の諸世界から見られたものであって、」 *1 ――無限そのものには左も右も高いも…

断ち切られない歌 後篇の中 13/14

Ascolta聞けとCaminantes進みゆくものよ ノーノは聞く人である、と一般には思われている。Prometeoの制作過程で本人の言によればsindrome antivisualistica *1 に罹ったノーノが、Emilio Vedovaの協力を得て模索していた視覚的演出のほとんどを「聞く悲劇」…

断ち切られない歌 後篇の中 14/14

航跡を引く 批評家から不本意にも点描主義者の称号を授けられているノーノが繰り出す、点を線に変換するための手練手管は枚挙に暇がない。 左右対称 点を線に変えるとは、島を船に変えることである。島と船を分かつもろもろの相違点は、「船/島は進みゆくも…